南陽荘

 おかげさまで佑哉は、札幌市内にある「南陽荘」に入所できることが決まりました。私どもにとっては、願ってもない幸運でしたが、まだまだ施設不足で遠くの施設に入所される方もたくさんいますし、手放しで喜べない心境です。

突然の幸運が

 「本当にいいんだよね」、「入れてもらえるって言ってたよね」。本当かな?って耳に残っている施設長さんの言葉を念を押すように夫婦で話し合っていた。
 学校から「札幌に新しい更正施設ができるので、面接してみたら」の連絡で、すぐに行ってみますとは言ったものの、過去にもあちこちの施設を見学していた。どこの施設も「空きができたら」とか「待機待ちの順番に入れておきます」との返事。まあ待機待ちの順番ぐらいに入れば御の字かなって気楽な気持ちで望んだ面接。佑哉も帰省で3人で出かけた。
 家から3〜40分の距離なので、少々早めに家をでて、面接会場近くの公園で時間調整。まあ期待せず望んだ方が落ち込まずにすむかななんて話をしながら。
 札幌市内と言っても、まだまだ自然があふれているこの場所は、老人施設とか保育所など都会の喧騒を逃れるように立ち並んでいる。この施設は、通所の更正施設で、所内は和やかな雰囲気。
 施設長さんにお目にかかると穏やかな話好きな方。何でも官庁の福祉関係を長く勤めたとか。いろいろ世間話をするが、施設長さんはもう4月からの話をされる。学校からも佑哉の書類等も届いているらしく、別段変わったことは聞かれない。健康のこと、日ごろの生活のこと、好きなことを少し聞かれたくらいだ。
 4月からこの施設より15分位離れた所に入所施設ができること。募集人数は30人。高等養護学校を出たくらいの子を対象にしていること。施設の完成は2月末で、それまでに入所希望者を募り決定すること、後日入所説明会をすることなど。
 とりあえず、よろしくお願いしますと帰ってきたものの、夫婦そろって狐につままれたような気分。喜んでいいのか、本当にいいのか。帰り際に施設長さんに、もう他の施設見学はしなくともいいのかって聞いたとき、他を見るのも自由ですよなんて言葉。本当に大丈夫だろうか。

入所説明会

 みんな半信半疑だったと思う。説明会に集まった面々は、口々に本当だろうかとの疑問が見え隠れする。中学校時代の仲間が沢山顔をそろえている。佑哉も顔見知りが沢山いるので表情が明るい。とりあえずクラス会の様相である。3年間遠くの学校へ通った子が多い。
 施設長さんからの説明は、面接で伺ったことと同じく新しいお話はなかったが、スタッフも決定し開所の準備が着々と進んでいるとのこと。説明が終わった後、初めて施設の工事現場に案内される。まだコンクリートが剥き出しでここが厨房で、ここが寝室だなんて説明されても実感が湧かない。
 しかし、環境は最高だ。札幌の夜景も遠くに望むことができ、木々の狭間に囲まれ、おそらく小鳥の囀りや夏には蝉の合唱も聞こえるのだろう。民家も近くに団地を形成している。
 本当に入所決定するのだろうか?まだ心配。

後日談

 同じ入所希望のお母さん達の連絡網ができた。とりあえず星置組から拡大して、情報が流れ出した。区役所に入所希望を提出したところ「そんな施設はない」と冷たくあしらわれたり、決定はいつになるかわからないなど。おまけに区役所の福祉担当は、空前の老人介護保険のことがいっぱいで手が回らないらしい。施設近くの住民からも反対運動が起きているらしい。開所は白紙になったとか。
 佑哉も含めてわれわれは脳ー天気。何とかなるさ。4月から入所できなくてもいつか入れるのだったら待つさー。

入所まで

 3月14日、入所選考結果の内報があって入所準備説明会を開催する旨の通知がやっと我が家に届いた。「やったぁー」これでほぼ決定かなー。
 通知の中には、具体的な服装の持ち物の数とか、私物のリストなど。佑哉は中札内高等養護学校を卒業するとき、壇上で「南陽荘にいきまーす」なんて大きな声で宣言してきてるし、入所できなかったらどうしよう。ちょっぴり不安な気持ちもあったので、まずは一安心。
 

入所から3ヵ月

 ようやく夏らしい季節がやってきました。佑哉が南陽荘に入所してからもう3ヶ月です。南陽荘にもすぐになれ、すでに主のような態度です。事務室の机に座り新聞を読んでいる姿はまさしく南陽荘の主です。
 最初は中札内高等養護学校の寮のように考えていたらしく、朝になると学校へいくものだと思ってたようだ。でも時間がたつうちに学校らしいところには行かず自分の好きなことができると判って、朝から晩まで音楽三昧。
 帰省も今までの習慣に合わせ2週に一度に。近いのでもっとお迎えにとも考えたが、将来のことを考えると限界かな。でも近すぎて、忘れ物は届けるは、何かあると呼ばれるなどが多くなりそう。

 南陽荘は社会福祉法人が運営しています。今まで通所の施設でしたが、入所部を作ったまったく新しい施設です。 建物も立派ですし、基準を重視し設備も立派ですが、なにせ新しいものですから、逆にいうと何も無い施設です。
 父母会が結成され、指導員の要望等を見るとこんなものまで無いのかというくらいナイナイです。特に生活する上での娯楽や全員で楽しめるゲーム等どうやって時間をつぶしているのか指導員の苦労が伺えます。
 というわけでこれから徐々に整備されなければならないこと山ほどの課題です。親がまだ動けるうちになんとかしなければと痛感しています。

 「よさこいソーラン」が今年も盛大に札幌の街に彩りをもたらしました。不幸な事件もあり佑哉が楽しみにしているお祭りを何で邪魔するのかと、怒りをも覚えましたが、今年も佑哉と出かけてきました。
 体をゆすり、自分でテンポをとって楽しんでいましたが、突然私に座れと命令。案の定肩車の要求です。もう親の体重を超えた体で、そんな御無体な。いまだに「よさこい」は肩車で見るものと決めているようです。来年は見やすい桟敷席でも予約しなければ。